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『貴女様はただ助けを求めていればいいのです。さぁ私が貴女様を助けてご覧にみせましょう』
「何を言ってるの?」
『さぁ望みなさい。そして誓うのです。私の名をしかと記憶なさい。私の名前は……』
あの夢だ。
懐かしい、幼い頃の記憶。
そこには幼い真琴と、トイレを襲撃した男がいた。
いつもはここでノイズが入り、目が覚める。
だがまるでこの記憶を体感しているかのような感覚だ。
目が覚めない。
「×××でございます」
「×××?」
うまく聞き取れない。
いや、聞こえた筈なのに名前だけ思い出すことができないのだ。
「貴女様はこの×××に力を貸して欲しいと願うのです。ただ家に帰りたいと」
「!?帰れるの?」
「勿論にございます。ただし、それなりの対価が必要となりますが」
「……たいか?」
「助けて差し上げる代わりに、何かを頂きたいのです」
「……?」
「……まぁ人間のガキに説明しても理解出来るとは思っていませんよ。これに名前を書いて下さいまし」
×××を名乗る男は左手をかざす。
忽ち左手は蒼い炎に包まれ、古びた紙切れに形を変えた。
そこにはまるで見たことのない文字のようなものが羅列している。
「何て書いてあるの?」
「約束を忘れないと誓う、と書いているのです」
「漢字書けない……」
「ではカタカナで」
多少手間取いながらも、男から渡されたペンで名前を書いた。
真琴は早く字が書けるようになりたいと、母にせがんで字を習っていた。
ただ、これが危険な契約とは知らずに名前を×××に晒す。
「書いたよ」
「いいでしょう。良くできました。それではマコト様、私は貴女様を助けます。そして約束を決して忘れないで下さいまし」
蒼い炎に包まれて、紙切れは消えた。
男は人差し指を口に寄せる。
「良いですか?私が助けるかわりに、貴女様は死後、私にその魂をお渡し下さい」
「え??」
全く言葉が理解出来ない真琴をよそに、男は続ける。
当然だ。
男は意図的に幼子には分からない複雑な言葉を使っているのだから。
「ただし、私の名前を決して忘れてはなりませんよ?もし私の名前を問われた際に答えられなかったら……」
声色が徐々に低くなる。
男の瞳は猛禽類を思わせるかの如く鋭く、少女の瞳を貫く。
「その場で貴女様の命は私のものです」
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