曖昧な記憶の中で

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気付いたら、そこは見覚えのある住宅街の一角だった。 足元にはアスファルトがあり、頭上には茜色の空がある。 秋から冬に移り変わる、中間の季節。 少女の目の前に広がるのは、よく知る自宅付近だった。 「あ……れ?」 何かを忘れている気がする。 思い出そうとすると、頭がクラクラした。 少女は眩暈を感じながらも、何故か無性に両親に会いたくなった。 (早く帰らないと、お母さんに叱られちゃう) 今日は少女の誕生日だ。 きっと母が料理を作って待っている。 夕日を背に、少女は駆け出した。 母親に心配をかけまいと帰路を急ぐ少女の背を、太陽は燃えるような朱で染め上げる。 肌寒い、11月の出来事。 少女は忘れてしまった。 先刻までの思い出を。 先刻までの恐怖を。 先刻交わした約束を。 それがどれほど危険なものなのかを。
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