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本屋の中は暖房が利いていたため、寒さに震えていた真琴は頬を緩ませた。
「あったかーい……」
このままずっと本屋に居られたらと、下らない妄想をしつつお目当ての本を探す。
しかし、寒い環境から突然暖かい場所に来たためか、トイレに行きたくなってしまった。
「凪、私トイレ行ってるね」
「いってら~。真琴欲しいのあったら、私取って置くから」
「ありがと」
凪紗に声をかけた後、真琴は足早にトイレへ向かった。
幸いトイレはがら空きで、気兼ね無く利用ができる。
真琴は入り口から5番目の個室に入って、用を足そうとスカートの中に手を入れて下着を下ろした。
だが、便座にかけた瞬間、トイレの扉が乱暴に開かれる音がした。
(えっ。や、やけに乱暴なお客さんだな……)
床のタイルに、革靴の底が当たる軽快な足音。
個室の扉を開ける音がして、直ぐに扉が閉まる音が響く。
これもまた乱暴な締め方だ。
(相当切羽詰まってるんかな……?)
アホ臭くはあるが、真面目に心配してしまう。
だが、また直ぐに個室の扉が開かれた。
――ギィッ
――バタン!
(あれ……?)
冷たい空気が辺りを包む。
――ギィッ
――バタン!
3つ目の個室も、直ぐに閉められた。
(こ、この人何やってんの?)
用を足す訳でもなく、ただトイレの個室の扉を開けては閉めるを繰り返す。
しかも、入り口側から順番にだ。
革靴の軽快な足音が、徐々に近付いてくる。
(……あ!も、もしかしたら何か忘れ物したとか!?なら有り得る!私の個室には忘れ物っぽいの無いし……)
ふと冷静になって考える。
忘れ物したとはいえ、何故入り口側から順番に個室をチェックしなければならないのか……。
(き、きっとどの個室に入ったか忘れたんだよね?)
――ギィッ
――バタン!
4つ目の個室の扉が閉じられた。
足音がヤケに耳に付く。
額から汗が流れてくる。
足が震えて、正面から目を逸らすことができない。
(だ、大丈夫。人入ってるんだし、流石にこの個室は飛ばすはず)
カツンと、足音が止まった。
束の間の静寂。
何も起こらない。
「……?」
――ガチャ
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