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「つまり、その子供が我々の、ただ一人の生き残りとなるわけですか」
「インブレイス!」
突然の発言に動揺し、ざわめく職員達の影から、一人のほっそりとした女性が前へと出て来た。
体格とその薄い金髪が亡くなった母親の写真と似ていてイリューンの胸は一瞬高鳴ったが、赤銀の細い眼鏡のフレームの奥からイリューンを見る女性の眼差しは、冷ややかで憎しみすら感じるものだった。
なぜ?
異端視する嘲りとも侮蔑とも違う眼差し。
初めて会う人なのに。それに今、生き残りって……
萎縮するイリューンの頭を柔らかく賢者の手が撫で、心配するなと言わんばかりにその肩を抱き寄せる。
「そうです。インブレイス。“終わりの時”までに彼の教育を、しっかりと頼みますよ」
「お任せください。この命にかえましても」
インブレイスは神経質そうにずれてもいない眼鏡のフレームの位置を直し、次の瞬間には憎しみに似た感情すら消した機械的な表情で、賢者に向かって言った。
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