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「勉強を始めます」
食事が済みテーブルの上を片付けてしまうと、インブレイスはぶ厚いファイルをその上に置き宣言するように言った。
小さな薄いシート一枚に膨大なデータが集約されている。
施設で文字や計算を覚えたり、楽しみに読む本も大抵は一年ごとに配布されるシート一枚ですべてが足りる。
勉強が特別嫌いというわけではなかったが、まさかあの手の下のぶ厚いシートファイルが教科書なわけ……ないよね、と、イリューンは思わず見つめてしまった。
その様子を横目に見たのか
「大賢者ワイズの予言は知っていますね」
ファイルに手を置き、おもむろに切り出された問いにイリューンは慌てて背筋を伸ばし、見上げた。
「え、……はい。学校で習い」
「予知のできないあなたには実感として認識できていないようですね」
言葉を遮るように機械的に言われイリューンは表情を強張らせた。
「あなた以外の人々は、どんな子供でも知っていてる〈事実〉なのです」
そんなことはわかってる。だから苛められてきたのだ。
先が無いことを知る他の子供達は現在の手近な遊びに夢中だ。
そして絶望の実感が薄い異物を敏感に弾き出す。
俯く子供を気遣うことなく説明は続けられた。
「しかし、この予言は正確には正しくありません」
突然の賢者の予言否定に驚き顔を上げる。
「一部の、特に能力の強い者達だけが知っている事柄が抜けているのです」
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