■母子■

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大賢者ワイズが再びイリューンの前に姿を現すことができたのは、1ヶ月も経過してのことだった。 何の前触れも無しに部屋に入って来たワイズは、初めて会った時よりも青ざめ硬い表情に見えた少年を見て、それから教官であるインブレイスに憂いた表情を向けた。 「少々、根を詰め過ぎてはいないかな?」 「年齢に合わせた適度な運動、休憩もスケジュールに組み込んでおります」 インブレイスは普段と変わらぬ鉄面皮で言いはったが、賢者はその答えを残念に思って顔を左右に振り、イリューンの傍らに近寄ってその癖のない艶やかな髪を撫でた。 「わかっておろう。一般的なデータで理想を予測できても、生きている限りすべてをそれに当てはめることはできんよ」 俯いたままテキストを見つめる少年の態度からして、彼女が『真実の予言』について話したのだろうと悟った。 いつかは知らなければならないことであり、時期を見て話そうとしていた。 しかしまだ幼く環境が変わったばかりの子供に対して、こんなにも早くインブレイスが伝えるとは思っていなかった。 この子供が隠されていた予言をどう受け取ったのかはわからないが、何かしら心を閉ざしているように感じられ、賢者はそのか細い腕を取った。 「私と一緒に散歩に行こう」 今目が覚めたかのように、少年の目が驚きに満ちて賢者とインブレイスの顔を見る。 彼女もまた一時驚きの表情を向けていたかに見えたが、すぐに苦いものでも噛んだような顔になって、無言で二人から目を反らし、ぶ厚いファイルを閉じた。 勉強は休みになったらしい。 「今日は草原の風が気持ち良い」 「草原?!」 初めてイリューンの目が輝いた。外へ行けるのだ!
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