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薄い金色の小さな頭が馬の間から見え隠れする。
なぜ、こんな場所に子供がいるのだろう。街からはまだ遠い筈だ。
子供は大きい馬が恐いようで近寄れずにいたが、やがて大きな声で馬車に向かって叫び出した。
「お母さんに会わせてください!インブレイスと言います!視星殿で働いています!」
お母さん?!確かに今、インブレイスと聞こえた。
あの子はインブレイスの子供なのか。
「車を出しなさい」
ワイズの落ち着いた低い声で、馬車は再びゆっくりと子供を迂回するようにして進み始めた。
街からは遠い。視星殿に住んで働く母親に会うために、家か施設から来たとしたら相当に長い距離を来たとしか思えない。
そんな小さな子供を無視して進もうとするワイズにイリューンは驚き、馬車の中で立ち上がった。
「どうしてっ、どうしてインブレイスさんに会わせてあげないんですか?!散歩ならまた」
「あの子は今日、母親に会う」
「えっ」
確信に満ちた断言と、動揺のない態度。
黙るしかなくて、イリューンは窓から見える子供の、今にも泣き出しそうな表情を見ながら、ずり落ちる様に座った。
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