■母子■

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「大賢者様。そろそろお戻りになられませんと」 今日は御者である運転手が話し掛けると、ワイズは閉じていた目を開けて、酷く疲れたように腰を上げた。 「どうか、なさいましたか」 豊かな髭の間から長く息を吐き、青い空に浮かぶ細長い雲を見る。 未来永劫変わらぬように映る、平和な景色。 「“終わりの時”を視ていた」 片手を前に伸ばし、触れはしないが前に広がる山の輪郭、草木の揺れを指先でなぞっていく。 いとおしく。失うことがわかっているから、なおいとおしく。 「巨大な光が全てを包むのだ」 ようやく振り向き、御者の不安そうな表情を見て、ワイズは優しく微笑んだ。 「恐れることはない。我々は一緒なのだ。そうであろう」 「はい」 御者は頷き、馬車の近くで待つイリューンに目をやった。
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