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「大賢者様。そろそろお戻りになられませんと」
今日は御者である運転手が話し掛けると、ワイズは閉じていた目を開けて、酷く疲れたように腰を上げた。
「どうか、なさいましたか」
豊かな髭の間から長く息を吐き、青い空に浮かぶ細長い雲を見る。
未来永劫変わらぬように映る、平和な景色。
「“終わりの時”を視ていた」
片手を前に伸ばし、触れはしないが前に広がる山の輪郭、草木の揺れを指先でなぞっていく。
いとおしく。失うことがわかっているから、なおいとおしく。
「巨大な光が全てを包むのだ」
ようやく振り向き、御者の不安そうな表情を見て、ワイズは優しく微笑んだ。
「恐れることはない。我々は一緒なのだ。そうであろう」
「はい」
御者は頷き、馬車の近くで待つイリューンに目をやった。
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