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帰り道、イリューンは一言も口を開かず、縮こまり、ワイズに何か話し掛けられても頷くばかりで目も合わせなかった。
それもそのはず。実は車の荷台の中に、インブレイスの子、ルインを隠していたのだから。
視星殿の門をくぐり、庭を進み玄関の前に車がつけられると、門番から連絡を受けた数名の職員が出迎えに出て来るのが見えた。
インブレイスもまた遅れて出て来て、いつにも増したしかめっ面で辺りを見回している。
車から降りると、イリューンは素早く車の後ろに回り込み荷台を開け、中の子供が出るのを助けた。
「お母さん!!」
ルインは真っ直ぐに駆け、インブレイスに抱き着いた。彼女もまた小さな肩を抱き返しはした……が。
すぐにいつもの様に表情を隠して淡々と言った。
「気が、済んだならルイン、お前の施設に帰りなさい」
イリューンは目を見張った。
「僕はお母さんと一緒に暮らしたい!“終わりの時”に側にいたいんだ!」
ルインはボロボロと涙をこぼして訴え、引き剥がそうとする母親の袖を掴む。
「私は“終わりの時”までにしなくてはならないことがあり、それを私の使命としたの」
「お前の母親は子供よりも仕事を取ったのよ。お前も好きなように自分らしく―」
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