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イリューンが部屋に戻ると、誰もいないと思っていたはずの室内に、誰かがいる気配がした。
「……インブレイス」
疲れたように力無く椅子に腰掛けていた彼女は、イリューンが戻ったことを知って立ち上がった。
慌てて普段の姿を取り繕うが、濃い眼鏡の横から目が赤いのが見えてしまって、イリューンは胸が痛むような気がして、顔をしかめた。
「休憩はもう終わりましたか」
しかし口調はいつも通りだ。
「今日は休んでいいって言われました」
「困ったものだわ。突然の外出で今日のカリキュラムが遅れたというのに。しかし大賢者様のご命令では仕方ありません。明日―」
「やりたくない!」
初めて勉強を拒否されたことに、インブレイスは驚き、目を見開いた。
「……イリューン」
素直だった生徒は俯き、その表情を伺い知ることができない。
「僕、勉強は別に嫌いじゃないよ。知らないこと知るのは楽しい。でも、どうしてこんなに、僕だけ?施設では……勉強しない子だって怒られなかったよ?」
「それは…………あなただけに……」
未来があるから。
その一言が喜ばしいことであるはずなのに、同時に酷く残酷なように思え、インブレイスは躊躇った。
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