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「やめてえぇーーー」
ワイズ達がイリューンの部屋へ来た時見たのは、普段おとなしい少年のどこにこんな激しさがあったのかと驚くほどの魂から恫喝と、錯乱し床に座り込む冷静沈着だった女教師の髪も乱れた姿だった。
涙を流しながら立ち尽くす子供に、どう接してよいのか、共に入室して来た従業員達は戸惑い、賢者を仰ぎ見る。
施設で伝えられたイリューンの特別な過去。それは集団自殺した女性の胎内にいたこと。
消え逝く母胎の中で懸命に生き抜いた命。
その激しさを目の前の少年の涙に濡れた横顔に見た。
(イリューンは…生きたいともがき、絶望の現実から逃げようとして苦しんだ者達から……そんな彼らの“未来を信じたい心”から生まれたのか)
ワイズは奇妙な感覚を覚えて、ゆっくりと入口に近づいた。
(滅びも死も、否定しきってしまえる……この強さが我々にあったならーー
ー滅ばなくても、すむのかもー)
それは大賢者と人々に尊ばれる偉大なる予知者の、中に残された人間としての本能からくる恐怖が見せた、一瞬の幻覚。
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