■予知■

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賢者ワイズは目を見開き身を震わせ、管理人の横をすり抜け、長いローブの裾を片手で脇へ寄せて階段を駆け降りた。 周囲から沸き起こるざわめきを気にすることなく少年の元へと急ぐ。 ズボンの膝についた中庭の芝を叩き落としていた少年、イリューンの片手を皺のある大きな手で恭しく取り、彼の前に膝まづいた。間近で奇跡を眺めるように彼を見つめた。 肩で切り揃えられた色素の無い白い髪。突然目の前に現れた老人に緊張して薄く桃色に染まった頬、驚きに丸くなりながらも思慮深そうに澄んだ深い青紫の瞳。 施設児童が着る白い衣装の、幅広な襟と胸元の飾りのタイが男子を示す薄い水色でなければ、少女と間違えてしまいそうだった。 「予知ができないというのは、事実か?」 ここの施設に大賢者が視察に訪れることは知らされており、テレビでも観ていたからイリューンにもこの老人が誰かは直ぐにわかった。 歴史に名を残す、現代で最高の予知能力者であり、事実上の最高権力者。 そんな偉い人が予知能力の無い自分を目の前に、なぜこんな皮肉な問いをするのか。 何が起きているのかわからず呆然としながらも、イリューンは事実を認めて悲痛に顔を歪めて頷いた。 「おお……」 感極まった賢者の両手が小さな体を包む様に柔らかく抱いた。 大半の大人達は異端の彼を遠巻きに見ていたが稀に能力が無いことへの憐れみや生い立ちを知って同情し、派手に親愛を示してくる人がいる。 それが一時的なものであっても、寄せられるぬくもりは親からの愛情に飢えている彼には嬉しく、それに……大賢者の大きな腕の中は温かく、特別優しく感じられた。 だが。 次にイリューンにだけ聞こえるように呟かれた言葉は、思いもよらない言葉だった。 「君が、君こそが……我々の希望の種なのだ」 .
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