■驚き■

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「あのっ、大賢者様。ここは」 児童施設を出て走ること数時間。いかに走行時に振動が無い乗り物と言えどお尻が痛くなってくる頃。 白亜の立派な門を入ったところで、馬のいない白い馬車を思わせる優雅な姿の車は音もなく止まった。 目的の中央の建物まで距離はまだあるが、初めて訪れる少年にこれから暮らす場所を見せておきたかったからだ。 道の両脇に咲き誇る多種の花々。奥にちょっとした森を思わせる木々。 広がる庭内には池まであった。鳥がさえずり葉影に小さな生き物の姿が見えて、施設育ちの子供にとっては胸が踊る光景だった。 それに……進む先の大きな建物にはテレビで見たことがある特徴的なフォルムがあり、まさかと思いながら興奮に息を弾ませ頬を染めて尋ねたイリューンを歩きながら見下ろして、賢者は穏やかな声で答えた。 「ここが視星殿(しせいでん)。……ああ、あれが天体研究所だ」 それは、気象を観察し予知と併せて事前に自然災害を防ぎ、豊かで安定した実りをもたらす為の『視空殿(しくうでん)』と対をなし、星を取り巻く宇宙や地殻の変動を研究し、やはり予知と併せて繁栄を築く礎となっていた。 身近な関心事に反応しやすい『予知』の性質からすれば、空より遥か遠い上空や深い地殻の状態を予知するのは更に高度なレベルが必要だ。 つまり、視星殿勤務者は必然的にこの星最高の能力者が集う場所でもあった。 「どうして自分が、という顔をしているな」 ワイズは歩きながら少年の顔を興味深く観察して、微笑んだ。 この先のことがわからない少年の反応と…… もう一つ、密かな喜びがワイズ本人に起きていて……それが実は彼にとって新鮮で堪らない喜びだった。 .
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