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「これから何が起きるのかも」
イリューンは不安を大きくさせ蒼紫の瞳を揺らせた後、俯いた。
「普通は……わかるんですよね」
わかれば、この先何があるのか夢にでもいいから視えていれば、こんなに徒に不安が募ったりしないのに。
暗く目を伏せる少年の頭を、皺だらけの手が優しく撫でる。
「……『わからない』ということは、素晴らしい贈り物なのだよ、イリューン。だからこそ君は」
未だ説明しても理解はできないだろうと思いながらも、劣等感に傷ついた心を少しでも癒してやりたいと続けようとした矢先、視星殿から数名の職員が駆けつけて来た。
正門守衛からの、子供連れで徒歩で向かったという連絡を受けて、何事かと迎えに来たのだ。
「大賢者様」
「おかえりなさいませ」
そして背後に立ちすくむ少年とも少女ともつかない10歳ばかりの子供の姿を見つけ驚きに目を見張り、次いで職員同士で顔を合わせ、その驚きが自分だけのものでないことにまた驚いた。
彼らは選りすぐりの予知者だった。
にも関わらず、自分達をこれほど驚かせる小さな客が来る『予知』が、誰の中にも無かったのだ。
「ふふ。皆驚いた顔をしているな」
賢者はいたずらめいた笑みを浮かべた。
実はワイズ本人も同様に驚きを感じていたからだ。
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