⑮私、頑張ります

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翌日、雫の携帯電話にメール連絡があった。 それは、雫の親戚のおじさん。 『永居君と会って話したい事があるから、そう本人に伝えて下さい』 俺は、会う気はない。 とことん、身勝手な奴なんかの話なんて聞いたところでムカツクだけだから。 月読家、雫の生まれ育った家、大切なおばあさんとの思い出のある家。 それを、平地にして他人に簡単に売り出してしまう。 思い出って、記憶って何なんだよ。 振り返った時の場面が何も無くて、雫はどんどん過去が分からなくなる一方じゃねぇか。 俺がもし雫の立場だったら、どうだったんだろう。 こんなふうで、見知らぬ誰かが突然現れて助けてくれるだろうか。 周りがこんなふうに、独りの自分に協力をしてくれただろうか。 きっと、俺がこんなふうに思えるのは雫だからだったのかも知れない。 優司の言ってた言葉。 確かに、分からない事だらけだから素直に他人の話が優しく聞けて、人と違うから魅力が有って、人を引き付ける。 強きは、弱きを助ける。 守って、支えてやる。 雫と居ると、確かにそんな気持ちになる。 優司にメールの話をした。 すると、 「俺が会うよ、電話で話したのは俺だから」 「会って、一体何が話たいんだか…」 「向こうだって、言い分があるんだろ」 「平地にしますから早く荷物を引き上げろって事が言いたいんだろ…なめてんなチクショ…」 つらすぎて、キレる。 「仲良しお二人さん、何話してるの?」 リサが現れた。 「はい、これ。雫ちゃんの採用通知と契約書ね」 「あぁ、ありがとう」 俺はそれを受け取ると、リサも気になっていたのか、月読家の話をしはじめた。 「月読家の片付け、まさかうちの会社に依頼が来るとは思わなかったわ。雫ちゃんには、もう伝えたの?」 「いや、伝えてない」 「伝えない方がいいな」 「私もそう思うわ」 「記憶が消えていくって言っても、脳がある以上絶対忘れてしまう事なんてないからさ」 「思い出しずらい場所にしまってあるだけだから、必ず何かの拍子にフラッシュバックするわ」 そうだな。 「雫には秘密にしておこう」 俺がそう言うと、優司もリサも頷いた。 「雫ちゃんの、その親戚とやらが好人と会いたいと連絡して来たんだよ」 優司はリサに話す。 「今の永居くんでは、会わない方がいいわね。あなた、すぐ嫌な言葉で片付けるし、キレるから」
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