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翌日、雫の携帯電話にメール連絡があった。
それは、雫の親戚のおじさん。
『永居君と会って話したい事があるから、そう本人に伝えて下さい』
俺は、会う気はない。
とことん、身勝手な奴なんかの話なんて聞いたところでムカツクだけだから。
月読家、雫の生まれ育った家、大切なおばあさんとの思い出のある家。
それを、平地にして他人に簡単に売り出してしまう。
思い出って、記憶って何なんだよ。
振り返った時の場面が何も無くて、雫はどんどん過去が分からなくなる一方じゃねぇか。
俺がもし雫の立場だったら、どうだったんだろう。
こんなふうで、見知らぬ誰かが突然現れて助けてくれるだろうか。
周りがこんなふうに、独りの自分に協力をしてくれただろうか。
きっと、俺がこんなふうに思えるのは雫だからだったのかも知れない。
優司の言ってた言葉。
確かに、分からない事だらけだから素直に他人の話が優しく聞けて、人と違うから魅力が有って、人を引き付ける。
強きは、弱きを助ける。
守って、支えてやる。
雫と居ると、確かにそんな気持ちになる。
優司にメールの話をした。
すると、
「俺が会うよ、電話で話したのは俺だから」
「会って、一体何が話たいんだか…」
「向こうだって、言い分があるんだろ」
「平地にしますから早く荷物を引き上げろって事が言いたいんだろ…なめてんなチクショ…」
つらすぎて、キレる。
「仲良しお二人さん、何話してるの?」
リサが現れた。
「はい、これ。雫ちゃんの採用通知と契約書ね」
「あぁ、ありがとう」
俺はそれを受け取ると、リサも気になっていたのか、月読家の話をしはじめた。
「月読家の片付け、まさかうちの会社に依頼が来るとは思わなかったわ。雫ちゃんには、もう伝えたの?」
「いや、伝えてない」
「伝えない方がいいな」
「私もそう思うわ」
「記憶が消えていくって言っても、脳がある以上絶対忘れてしまう事なんてないからさ」
「思い出しずらい場所にしまってあるだけだから、必ず何かの拍子にフラッシュバックするわ」
そうだな。
「雫には秘密にしておこう」
俺がそう言うと、優司もリサも頷いた。
「雫ちゃんの、その親戚とやらが好人と会いたいと連絡して来たんだよ」
優司はリサに話す。
「今の永居くんでは、会わない方がいいわね。あなた、すぐ嫌な言葉で片付けるし、キレるから」
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