⑯私、とっても楽しいよ

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しばらくして、優司は涙目をして俺に言う。 「俺はおまえに成り代わり行った。だから、親戚のおじさんは俺に事細かい話を全て教えてくれた。おまえじゃない俺が行って、俺は泣いたんだ……」 えっ、泣くって? 「前田くん、いいわ。私から話すわ」 俺は訳も分からずに、リサの話を聞く。 「何を聞いても、大きな声出さなさいでね。聞きたくなかったら、それ以上はもう話さないから」 「だから、何なんだよ。早く言え」 リサは風呂場を確認して、小声で話始めた。 「雫ちゃんの出生を聞いたわ。彼女は月読とは全く血の繋がりはないそうよ」 「どういう事だ」 「三十二年前に、彼女の母親は月読家の近くで通り魔にレイプされた。月読のおばあさんが彼女の母親を保護して家に招き入れた。今では警察なり裁判ざたは起こせるけど、当時の若い女性では何も出来ずに、泣きね入りが当たり前の時代。だから、家にも帰れず雫ちゃんの母親は月読家でしばらく暮らす事になった」 「ちょっと待て、じゃあ雫は…」 「そうよ、レイプされた時に出来た子なのよ。だから、父親は見ず知らずの犯罪者」 「で、母親は…」 「雫ちゃんを産んで失踪自殺した」 ……嘘だろ、じゃあ本当の本当に雫には誰も身寄りが居ないのかよ。 産まれてから、ずっと……ずっと……。 「月読の叔父様の話では、お腹が大きくなる度に、母親はもう気がおかしく成ってノイローゼになっていたそうよ」 「犯罪者だと分かって、何故下ろさない!下ろせば苦しまなかっただろ!」 「下ろすのだって、お金が掛かるのよ?その前に病院だって女独りで恥ずかしくて行ける訳ないわ。夫婦揃って、幸せを待ち望んでる待合室で、震えて待つ独りで孤独な気持ち。男の永居くんには伝わらないでしょうね……」 リサは涙を流しながら言った。 「誰にも相談できない…そんな時代の中で、心がボロボロになっていたのよ…」 リサは言葉を詰まらせ、続けて言った。 「女だから、一瞬でも産んでみたいって思うのよ…」 ……分からねぇ、分からねぇな……そんな一瞬をずっと引きづったまま挙げ句の果てに、自殺だなんて。 「さっぱり理解不能だね、残るものの気持ちを一切考えちゃいねぇ行動だ」
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