⑯私、とっても楽しいよ

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雫は月読家とは、全く関わりない。 雫は母親も、父親もいない。 雫は記憶が消されていく障害。 三十二年間、そんなふうでよく生きてこれたよな。 よっぽど、月読のおばあさんに良くしてもらったんだな。 突然何もかも失ってしまう苦しみや、つらさを感じたら、死に辿り着くまで歩き続けてしまうのかもな。 雫との最初の出逢いも、そうだった。 出会い系なんかのメールで、夜道をさ迷い歩き続け、自分の家の帰り道がわからなくなっていたよな。 俺がどんな男かも知らず、家まで付いて来て。 月読のおばあさんが雫の母親を保護したように、行く宛の分からない雫を俺が保護した…か。 はじめて月読家に行った日も、雫は言った。 「どうせみんな死ぬ、独りになれば死ぬチャンスはいくらでもある、何もかも忘れてしまうなら、自分がこの世から消えてしまえばいい」 俺は雫の言葉を、声に出して呟いた。 「何だよ、それ?」 「以前、雫が漏らした言葉だ」 優司は言った。 「絶対、おまえはあの子から離れたらいけない。どんなにムカついても、絶対に突き放したりするなよ」 俺は黙って頷く。 「そろそろ、雫ちゃんが戻ってくるわ」 リサは風呂場の音を確認する。 「永居くん、絶対態度や言葉に出さないで。必ず異変に気が付いてしまうから。そのために全てを今日にしたんだから」 「……分かった」 タオルを首に巻いて、雫は笑いながら現れた。 「好人っ☆」 そして、俺の隣に座る。 「何だよ、何ニヤニヤしてんだ?」 「えへへ☆もう、みんな帰っちゃったかと思ったから」 「風呂上がりの雫ちゃんが見たかったから、待ってた」 優司はエロい言い方をして楽しませ、 「はい、雫ちゃん。オレンジジュースね」 リサも変わらず、穏やかに笑っていて、 「……」 俺は黙って雫を見つめていた。
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