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今日は午前中、雫を連れて堀河家に庭の手入れに行く。
俺と残り二人は本宅、雫は別宅で草むしり。
「好人、ここに居ないの?」
「居ない。時々見に来てやるから心配するな。休憩しながら、ゆっくり草むしりをしてればいい」
俺だって本当のところ、めちゃくちゃ心配なんだ。
こいつ独りを外に出させて、どっかに行っちまったらと思うと。
雫は口を尖らせて、しゃがみこんだ。
それを、俺は無視して、
「あっちから順番な。で、前に進まず後ろに下がって……、見てろよ?こうやって草を取るんだ。分かったか?」
俺は、かがんで手本を見せる。
「こう?」
「そうそう。じゃあ俺行くな」
雫は更に露骨に寂しそうな顔をするから、
「また、来る」
何だかやっぱり不安気の雫だった。
まさか、独りで作業させられるだなんて思わなかったんだよな。
そういう日もある。
渡り廊下では、ボケたばあさんがぼんやり空を見つめて、いつものようにボヤいていた。
俺たち三人は、本宅で花壇や芝生の手入れ、除草の作業をする。
剪定だとか個人宅の庭の手入れとなると、やっぱり金持ちの大きい家が多い。
そういうのは、だいたいが社長の顔が広いから、昔からの顔馴染みの人ばかりだ。
地味で尚且つ、外での作業が多い。
いつも、草や枯れ葉や土臭い。
虫刺されだったり、肌荒れもある。
「永居、肥料持ってきてくれ」
今日のメンバーでは、俺が一番年下だ。
だから、指示を貰いながら動く。
「あれ、可愛い懐中時計っすね」
先輩二人は話していた。
「おう、これか。ここ、開くと子どもの写真が付いてんだ」
「へぇ、オーダーですか?」
「そうよ、子どもの名前に誕生日入りだぜ」
「なるほど」
他人の話に興味はない。
だから、俺は知らんぷりして肥料をまく。
「子どもが生まれちまうと、女房より子どもが大切なんだよな」
あいつ、自慢話か。
くだらん。
「でも、大切なモノをいつも身に持ってるっていいっすね」
「御守りだよ、御守り」
大切な御守り?
「駅前の近くに新しく出きたシルバーアクセサリー専門の店だ」
「じゃあ、俺もペンダントでもオーダーしようかな」
オーダーでペンダントか。
金の有る奴はいいねぇ、贅沢できて。
そんな話はどうでもいいから、さっさと作業して俺は終わりたいんだけどね。
雫が心配だから。
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