⑰私、いつも守られてる

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今日は午前中、雫を連れて堀河家に庭の手入れに行く。 俺と残り二人は本宅、雫は別宅で草むしり。 「好人、ここに居ないの?」 「居ない。時々見に来てやるから心配するな。休憩しながら、ゆっくり草むしりをしてればいい」 俺だって本当のところ、めちゃくちゃ心配なんだ。 こいつ独りを外に出させて、どっかに行っちまったらと思うと。 雫は口を尖らせて、しゃがみこんだ。 それを、俺は無視して、 「あっちから順番な。で、前に進まず後ろに下がって……、見てろよ?こうやって草を取るんだ。分かったか?」 俺は、かがんで手本を見せる。 「こう?」 「そうそう。じゃあ俺行くな」 雫は更に露骨に寂しそうな顔をするから、 「また、来る」 何だかやっぱり不安気の雫だった。 まさか、独りで作業させられるだなんて思わなかったんだよな。 そういう日もある。 渡り廊下では、ボケたばあさんがぼんやり空を見つめて、いつものようにボヤいていた。 俺たち三人は、本宅で花壇や芝生の手入れ、除草の作業をする。 剪定だとか個人宅の庭の手入れとなると、やっぱり金持ちの大きい家が多い。 そういうのは、だいたいが社長の顔が広いから、昔からの顔馴染みの人ばかりだ。 地味で尚且つ、外での作業が多い。 いつも、草や枯れ葉や土臭い。 虫刺されだったり、肌荒れもある。 「永居、肥料持ってきてくれ」 今日のメンバーでは、俺が一番年下だ。 だから、指示を貰いながら動く。 「あれ、可愛い懐中時計っすね」 先輩二人は話していた。 「おう、これか。ここ、開くと子どもの写真が付いてんだ」 「へぇ、オーダーですか?」 「そうよ、子どもの名前に誕生日入りだぜ」 「なるほど」 他人の話に興味はない。 だから、俺は知らんぷりして肥料をまく。 「子どもが生まれちまうと、女房より子どもが大切なんだよな」 あいつ、自慢話か。 くだらん。 「でも、大切なモノをいつも身に持ってるっていいっすね」 「御守りだよ、御守り」 大切な御守り? 「駅前の近くに新しく出きたシルバーアクセサリー専門の店だ」 「じゃあ、俺もペンダントでもオーダーしようかな」 オーダーでペンダントか。 金の有る奴はいいねぇ、贅沢できて。 そんな話はどうでもいいから、さっさと作業して俺は終わりたいんだけどね。 雫が心配だから。
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