⑰私、いつも守られてる

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黙々と淡々と作業をして、堀河の嫁さんがお茶を入れてくれる。 俺は、その間に別宅へと様子を見に行く。 雫はどうしてるかな。 草をむしっているかと思ったら、雫は渡り廊下でボケたばあさんの隣に居た。 「雫、どうだ草むしり」 「あっ、好人っ」 俺はボケたばあさんに、一応頭を軽く下げた。 「バカ、こんな汚いのに廊下に座ったらダメだろ」 「ごっ、ごめんなさい」 ボケたばあさんは、かすれた声で言う。 「まぁちゃん、外国からいつ帰ってきたの?何年もかかるって言ってたのに…」 雫は答える。 「さっきだよ。草むしりしに来たんだよ」 何をやってんだよ。 「そうかい、わざわざそのために帰ってきたの。ありがとうね」 「おばあちゃん、また草がたくさん生えたら来るからね」 「外国は遠いのかい?」 「近いよ、車だから」 「そうかい、そんなに近いなら、おばちゃんも安心したよ」 俺はしばらく、雫とボケたばあさんのやり取りを見つめていた。 雫もボケてるから、ちょうどチグハグな会話で、案外いいのかもな。 すると、嫁さんがお茶とお菓子を持って現れた。 「おばあちゃん、お仕事の邪魔になるから静かにしてなきゃだめよ。本当にみっともない。ごめんなさいね、お相手させちゃって」 「いえ、全然お気になさらないで下さい」 「おばあちゃんの話、楽しいから平気です」 そりゃ、有る意味おまえは平気だよな。 「外国へ嫁いだ孫娘の話を毎日するんですよ。お嬢さんと同じ年くらいだから」 「うわっ、ケーキだぁ♪」 「召し上がれ」 「いただきます!」 「アルツハイマーで、時々何処かへフラリと行ってしまうから、目が離せなくて。過去を思い出せない、歯痒さなんでしょうね。さ迷い歩いて、何か思い出せる訳でもないのに」 「そうですか…」 「だから、名前と電話番号入りのブレスレットを付けさせているんですよ」 ばあさんのシワだらけの腕には不釣り合いの金のブレスレット。そこには、確かに文字が彫られていた。 「色々あるんですね」 冷たくあたる嫁さんにも、理由は有るわけだ。 「当分は、彼女が草むしりの専属になりますんで、今後とも宜しくお願いします」 「いえ、こちらこそ」 俺は頭を下げると、雫も慌てて、 「よっ、宜しくお願いします!」 生クリーム、口に付けたまま言った。 おまえなぁ……。
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