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「これにするわ」
「メッセージは何て入れられますか?」
店員に雫は答える。
「アイラブユーがいいな☆」
俺はそれに対して、
「却下する」
店員と雫は俺を見た。
「えぇーっ!」
雫は声をあげた。
俺はそんなふうに雫に持たせたい訳じゃない。
あの堀河さんのおばあさんのブレスレットのように、緊急時の御守りとして持たせたいんだ。
何がアイラブユーだ。
そんなもん、誰が入れるかアホッ。
俺は店員に相談すると、店員はそういうお客は他にもたくさん居ると言い、引き受けてくれた。
「ここに彼女さんの名前。そしてエマージェンシーは緊急時連絡先、その下に彼氏さんの名前に電話番号でどうでしょうか?」
「いいねぇ、それでやってよ」
「では、3週間ほどで出来上がりますので。出来上がり次第、こちらからご連絡させて頂きます」
俺は、金を払い再び雫の手を繋いで帰る。
雫は車の中で、俺の買ってやった新しい携帯電話をいじくり回していた。
「住所変更もしたし、荷物もだいたいは運び出したし、携帯電話も俺の契約だから、何も問題ない。あとは何だっけ」
人に冷たく。
キツイ性格だと言われる、この俺が。
ここまでやってやるんだから。
この俺自身がビックリだ。
「ありがとうね、好人っ☆」
「明日には忘れるのが、痛いけどな」
「そんな事ないよ」
雫は嬉しそうに答えた。
自分にこんなに他人を思いやる気持ちがあったなんて。
むしろ、そういう気持ちを与えてもいいと自然に思えるだなんて。
思いもよらなかった。
何かして、相手を喜ばしたり。
何かから、守るだとか。
全然、意識した事のない感情だとかが自分に宿り始める。
何かが、俺の中でゴソッと変わるような気がする。
雫と居ると。
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