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俺は頬杖を付いて、雫が落ち着き眠るのを待つ。
ふと、雫の家が壊れて崩れていくさまを思い出す。
何か胸が痛むってのは、こんな感じなんかなぁ。
俺は横になりながら、ギュッと雫を抱き締めた。
「…好人?」
「あっ、起こしたか?悪りぃな」
雫は俺の頭を撫でるから、ついでにキスしてやった。
「あっ、キスした」
「今度はおまえからしろ」
……チュッ……
雫も俺にギュッとしがみついた。
「おやすみのキス?」
「そうだ。朝はおはようのキスしような」
「じゃあ、いってきますのキスも?」
「そしたら、ただいまのキスもいるな」
これ以上イチャ付くと、身体がうずくからもう、寝よう。
それからしばらくは、何もない穏やかな日々が続いた。
仕事も順調で、雫は優司やリサ以外の会社の奴とも一緒に現場に行ったりと。
名前も顔も、忘れちゃうけど。
組む人間が毎回違うから、記憶障害だとはバレていない。
いつしか「雫ちゃん」と会社のみんながそう呼ぶようになっていた。
事務所で楽しげな、話し声が聞こえる。
「永居の相手は大変だろ?いつも鬼みたいな怖い顔して、言葉は悪いしキツイし。雫ちゃんは本当によく出来た子だよ」
そう雫に言って、周りを楽しませてる気でいるのは社長のバカ息子。
「えへへ☆誉められた」
雫は照れながら笑う。
「だって雫ちゃんは、永居くんのエンジェルハートだもんね」
リサが言うと、周りが笑う。
「何それ?癒し系ってか?」
「癒し系よ」
「あんな怖い顔して癒し系求めてんの?笑っちゃうな」
バカ息子の言葉に周りの事務の女たちが、ドッと笑っていた。
俺はわざと大きな音をたてて、会社の車の鍵を机に叩きつけた。
「只今、戻りましたけど!」
一瞬、ヤバいと事務所内が静かになる。
「あっ、好人っ♪」
リサは近寄り鍵を受け取り、
「お疲れ様」
普通に答える。
「おう」
リサには俺も頭が上がらない。
雫にいつもお弁当を作って来てくれて、空き時間には、いつも側に付いて居てくれるから。
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