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何もかもうまくいっていた。
仕事もプライベートも。
雫だって、いつも俺と一緒に居るから、いつも俺と同じ気持ちでいるんだ。
だから、絶対俺から離れたりしない。
俺は雫のためなら、どんだけでもやってやる。
優司やリサも、その思いは俺と同じで。
雫が毎日何かを忘れていく度に、俺たちは毎日二倍、三倍と雫に楽しみを与えていた。
だから、雫はいつも笑顔を絶やさない。
その笑顔は今では多くの人々に、愛されている。
おまえがそうやって元気に楽しそうに笑ってくれるから俺は毎日、嬉しいよ。
俺がしている事が、ちゃんと雫に伝わって、自分に返ってきているから。
「雫、このお寺のあそこの庭なぁ、俺たちが造ったんだよ」
今日は街外れにあるお寺に紅葉を見に来た。
そのお寺は古くて、改装がてら和風庭園を新たに造りたいと住職が希望して何年か前に、うちの造園会社で手掛けた庭だ。
「キレイだね」
「本当にそう思ってるか?」
「私ね、あぁいう自由な感じ好きだよ」
んーっ、ちょっと理解しがたいコメントだな。
「庭を見ながら、お茶を飲んでゆっくりできりゃ多少は人も来るだろ?だから、和風庭園を改めて造る事にしたんだと」
「本当だ、人がいるね。お茶もお菓子も出る?」
「もちろん、金出しゃな」
雫はカバンからお財布を出す。
こいつ、お菓子に釣られてるの丸分かりだぜ。
「いい、それは閉まっとけ」
「へっ?」
俺は入口で二人分の料金を払う。
「何か床の音いいね。何か古臭いからいいね。何か、おばあちゃんの家みたいでいいね」
……!
雫の言葉に思わず立ち止まった。
…おばあちゃんの家か。
ごめんな。
もう今は雫がそこを見かけても、おまえが思い出せるものは何もないんだ。
「好人っ、ここ座る」
「お、おう。そこにするか…」
どうしよう。 それ以上、月読家の事を突っ込まれたら。
聞かれたりしないようにするには…。
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