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俺はめったに自分の話はしないが、雫には話してもいいと思って、自分の話をした。
どうせ忘れちゃうんだから、いいか。
「昔、俺も優司もお世話になった先輩が居てさ、今はうちの会社から独立して、単独で庭師やってんだけどよ。何年くらい前かなぁ…その人のもとで、あの庭を造ったんだ」
「へぇ~、凄いね」
「庭一つ造るのに、あの大きな木や、たくさんの石だとか灯籠だとか用意して、配置図通りに造り上げていくんだけど。やっぱり決められた範囲があってさ、庭って見てくれが大事だろ。四方八方からもキレイに見えなきゃならんから、そらぁ色々大変だったよ」
「そいで、そいで?」
「草や花しかまだ触った事のない俺らだったから、配置等の間隔で、よく怒鳴られてたっけ」
「そして、好人はキレた?」
雫は笑って言うから、
「キレたら倍になって返されるわ」
「じゃあ、そして好人は帰った?」
「仕事中に帰れるかっての!」
また雫はふざけて笑うから、頭をコツいてやった。
「竹垣から石積み、飛び石も、とにかくあの辺りを俺たちは何日もかけて造ったんだ。…懐かしいなぁ、今思うと」
「ふぅ~ん、じゃあまた好人も造ったらいいじゃん」
「そうだな、あれだけのものが造れたらいいよな…」
今の俺じゃ無理だけど。
「どうして?ダメなの?」
「庭造りってな、図面から何から全てやって完璧じゃなきゃダメなんだ。そういうのは、一番難しい試験に合格しないと、造らせてもらえないんだよ。技能士資格一級免許ってのがないとダメなの」
「ぎのうし?しきゃく?いっきゅう?」
あぁ、ダメだこいつ。
さっぱりって顔してる。
「じゃあ、それ取ればいいじゃん。頑張れ、好人っ♪」
「そんな簡単に言うな」
凄い倍率だと、俺は周りからよく聞く。
三級、二級は中高生でもへたすりゃ取れるんだが。もちろん、俺も持ってるが。
「雫がそうやって言ってくれるなら、頑張ろうかな、俺も…」
「えへへ☆頑張れーっ!」
雫は本当に他人事だな。
しかも、もう視線の先はお茶とお菓子だ。
「お待たせしましたぁ」
「お菓子、お菓子ーっ!」
切り替えが早いな。
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