⑳私には何も無い

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「とりあえずは、おまえはもう家に帰れ。会社内はリサ達が遅くまで残るから任せてさ。俺は月読のおじさんに連絡取ってみるよ。だいたい行く範囲は決まってるはずだから」 「すまんな……」 「もしかしたら、月読の自分の家に行ってるかも知れないだろ?その辺りは俺が探すよ」 「そうだな……」 俺は頭をかかえて、深い溜め息をついた。 ホワイトクリスマスって、確かに外を見ると空には雪雲らしきものが見える。 風も強く吹き始めて、最悪な天候になるのが目に見えて分かる。 「大丈夫だ。すぐ見つかる。だから、あんま怒ってやんなよ」 「……どうだかな」 俺はジャンパーを羽織って、独りで家に帰る。 時間は刻々と流れていく。 家の中で独り。 テレビなんて、見る気も失せる。 食事も何だか味気なくて、俺は途中でゴミに捨てた。 携帯電話に何度も着信を入れる。 メールもだ。 優司から連絡が入った。 「月読のおばあさんの家の近くで、雫ちゃんらしき女の子を見たって。近所の人が教えてくれたぞ。やっぱりフラッシュバックで、ここ来てるな」 何だよ、アイツは! 家に戻れるんじゃねぇか! 「何時頃?」 「夕方頃だって話だ。仕事終わってすぐだろうな」 「そうか……」 俺はカーテンを少し開けると、厚めの雪が降り始めていた。 こんな日にアイツ。 明日のクリスマスを俺がおまえに、どんだけ喜ばしてやろうかと、思ってたと思うんだ。 リサからも連絡があった。 「さすがに22時までは粘ったけど、セキュリティの関係で、これ以上は会社に居られないから、帰るわね」 「悪いな、遅くまで」 「気にしないで」 雪はどんどん降り積もる。 俺は相変わらず落ち着かずにいた。 こんな寒い日に、何処に行ったんだ? 早く帰って来いよ。 早く、早く、早く……。 俺はベッドに横になり、あれやこれやと雫の行きそうな場所を思い出す。 思い出す記憶が有りすぎて、頭がパンクしそうだ。 いつの間にか、アイツとのたくさんの出来事が俺の頭の中に詰まっていた。 おまえみたいな奴は、今までに一度も出逢った事のない、どうしようもなく扱いづらい女だよ。 すぐに忘れちゃうだとか言ってるから、俺はいつもおまえが一体何を考えてるのか、不可思議な行動に何度も惑わされていた。
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