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事故に巻き込まれていたら……。
寒さに凍えていたら……。
変な男に連れ去られていたら……。
帰り道が分からなくて、俺の名前を呼んで泣いているんじゃないか……。
どうして携帯電話に連絡してくれないんだ?
頼むから連絡してくれよ。
俺は急に不安になって、頭を何度もかきむしる。
怒ったりしないから。
抱き締めて、温めてやるから。
俺を今更独りにしないでくれ。
俺の前から突然消えないでくれ。
寂しいんだよ。
忘れられたくないんだよ。
クソッ!
どうしたらいいんだ!
どこを探したらいいんだ!
すると、携帯電話が鳴った。
液晶には、雫の名前。
「もしもし!」
俺はやっぱり強く言ってしまった。
「あの、この携帯電話を拾った者なんですが。この携帯電話の持ち主の方の知り合いの方ですよね?」
携帯電話を拾った?
アイツ、こんな大切なものを落として気が付いていないのか?
「あっ、あの、すいません。えぇ、彼女が行方不明で探しているもんですから…」
俺は一呼吸、置いて答える。
「実は◯◯駅のトイレで、この携帯電話を拾ったんです。変な人にデータ盗まれるといけないと思って、とりあえず私が持って帰ったんです。何度も永居さんから、着歴が残っていたので、申し訳ないですが、電話をかけてしまいました」
「あの、その携帯電話は何時頃、拾ったんですか?」
「20時前頃です」
◯◯駅に20時頃か。
何で、そんな街外れの駅に行ったんだ。
あんな、藪だらけの何もない場所に。
俺はふと、雫の記憶ノートを見つけて開く。
……雫。
俺は目を大きく見開いた。
そのノートには、リアルに俺の顔のイラストが何枚も何枚も描かれていた。
そして、俺がその日に言った言葉も添えて書かれていた。
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