⑳私には何も無い

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事故に巻き込まれていたら……。 寒さに凍えていたら……。 変な男に連れ去られていたら……。 帰り道が分からなくて、俺の名前を呼んで泣いているんじゃないか……。 どうして携帯電話に連絡してくれないんだ? 頼むから連絡してくれよ。 俺は急に不安になって、頭を何度もかきむしる。 怒ったりしないから。 抱き締めて、温めてやるから。 俺を今更独りにしないでくれ。 俺の前から突然消えないでくれ。 寂しいんだよ。 忘れられたくないんだよ。 クソッ! どうしたらいいんだ! どこを探したらいいんだ! すると、携帯電話が鳴った。 液晶には、雫の名前。 「もしもし!」 俺はやっぱり強く言ってしまった。 「あの、この携帯電話を拾った者なんですが。この携帯電話の持ち主の方の知り合いの方ですよね?」 携帯電話を拾った? アイツ、こんな大切なものを落として気が付いていないのか? 「あっ、あの、すいません。えぇ、彼女が行方不明で探しているもんですから…」 俺は一呼吸、置いて答える。 「実は◯◯駅のトイレで、この携帯電話を拾ったんです。変な人にデータ盗まれるといけないと思って、とりあえず私が持って帰ったんです。何度も永居さんから、着歴が残っていたので、申し訳ないですが、電話をかけてしまいました」 「あの、その携帯電話は何時頃、拾ったんですか?」 「20時前頃です」 ◯◯駅に20時頃か。 何で、そんな街外れの駅に行ったんだ。 あんな、藪だらけの何もない場所に。 俺はふと、雫の記憶ノートを見つけて開く。 ……雫。 俺は目を大きく見開いた。 そのノートには、リアルに俺の顔のイラストが何枚も何枚も描かれていた。 そして、俺がその日に言った言葉も添えて書かれていた。
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