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優司はすぐに、俺の家に来てくれた。
「悪いな、本当に」
「いいって、早く行けって。俺はここで雫ちゃんを待ってるから」
俺は今から、あの寺に行く事にした。
「気を付けて行けよ、雪道だからな」
「おう」
「これ、持ってけ」
優司はポケットからカイロを出して渡された。
「それから、毛布もな。凍えてると行けないから」
「そうだな、すまん」
毛布を受け取り、玄関を閉める。
「好人。雫ちゃんの居場所はおまえの所しかないんだから。ちゃんとそこは優しく教えてやれよ。何も無い自分を、おまえに探し出してもらいたいんだと思ってるはずだから」
優司に玄関先で言われた言葉に、俺は胸を打つ。
「分かった」
車の中を暖めて、俺は寺へと向かった。
雫、頼むから変な事を考えるなよ。
おまえは、おまえの母親とは違うんだ。
分からなくなったからって、何も無いからって、消える事なんてないんだ。
辛くたって、俺だけじゃなく、優司もリサも、会社のみんなが絶対おまえの力になってくれるんだから。
そういう気持ちにさせてくれたのは、間違いなくおまえだからだよ。
大好きな月読のおばあさん。
でも、今は大好きなのは俺だろ?
だから、大好きな俺の側から離れようとするな。
山道の登り坂をS字に何度もハンドルを回す。
雪が窓ガラスに張り付く。
真夜中に、こんな道を走る車は俺だけ。
雫、無事で居てくれ。
すると、俺の携帯電話に着信が入る。
車を止めて、携帯電話を見ると知らない番号からだ。
「もしもし?」
「永居さんですか?」
「えぇ、はい。そうですが」
「ペンダントを見ました。おじいちゃんには、こんな時間に電話するなって言われたんだけど、雫さんは今、家で保護してますから、安心して下さい」
中学生くらいの男の子か。
「雫、そこに居るんですか?」
「はい、今は寝ています。犬がずっと吠えてたから、見に行ったら僕の家の庭で雪に埋もれていました」
「どっ、どこのお宅ですか?今は◯◯駅から外れた◯◯寺の近くに居るんですが」
「あぁ、僕の家から近いです。その山道の降りた近くの旧街道沿いです」
「今から行ってもいいですか?」
「分かりました。たぶん、そこからなら車で10分程で着くと思います。藤乃宮って言います。僕、家の前で立って待ってますから」
「ありがとうございます、すぐ行きます」
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