⑳私には何も無い

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優司はすぐに、俺の家に来てくれた。 「悪いな、本当に」 「いいって、早く行けって。俺はここで雫ちゃんを待ってるから」 俺は今から、あの寺に行く事にした。 「気を付けて行けよ、雪道だからな」 「おう」 「これ、持ってけ」 優司はポケットからカイロを出して渡された。 「それから、毛布もな。凍えてると行けないから」 「そうだな、すまん」 毛布を受け取り、玄関を閉める。 「好人。雫ちゃんの居場所はおまえの所しかないんだから。ちゃんとそこは優しく教えてやれよ。何も無い自分を、おまえに探し出してもらいたいんだと思ってるはずだから」 優司に玄関先で言われた言葉に、俺は胸を打つ。 「分かった」 車の中を暖めて、俺は寺へと向かった。 雫、頼むから変な事を考えるなよ。 おまえは、おまえの母親とは違うんだ。 分からなくなったからって、何も無いからって、消える事なんてないんだ。 辛くたって、俺だけじゃなく、優司もリサも、会社のみんなが絶対おまえの力になってくれるんだから。 そういう気持ちにさせてくれたのは、間違いなくおまえだからだよ。 大好きな月読のおばあさん。 でも、今は大好きなのは俺だろ? だから、大好きな俺の側から離れようとするな。 山道の登り坂をS字に何度もハンドルを回す。 雪が窓ガラスに張り付く。 真夜中に、こんな道を走る車は俺だけ。 雫、無事で居てくれ。 すると、俺の携帯電話に着信が入る。 車を止めて、携帯電話を見ると知らない番号からだ。 「もしもし?」 「永居さんですか?」 「えぇ、はい。そうですが」 「ペンダントを見ました。おじいちゃんには、こんな時間に電話するなって言われたんだけど、雫さんは今、家で保護してますから、安心して下さい」 中学生くらいの男の子か。 「雫、そこに居るんですか?」 「はい、今は寝ています。犬がずっと吠えてたから、見に行ったら僕の家の庭で雪に埋もれていました」 「どっ、どこのお宅ですか?今は◯◯駅から外れた◯◯寺の近くに居るんですが」 「あぁ、僕の家から近いです。その山道の降りた近くの旧街道沿いです」 「今から行ってもいいですか?」 「分かりました。たぶん、そこからなら車で10分程で着くと思います。藤乃宮って言います。僕、家の前で立って待ってますから」 「ありがとうございます、すぐ行きます」
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