⑳、私には何も無い(2)

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雫は真っ赤な顔をして、震えていた。 優司のカイロを握らせる。 もうすぐ家に着くからな。 優司は玄関先で俺たちを出迎える。 「おかえり、よかったな無事に見つかって」 「あぁ、やっぱり俺は怒ってしまった」 俺は抱えた雫をベッドへ寝かせる。 「それだけ、本気で好きだって事なんだろ?」 「まぁ、そんなとこだな」 優司は俺に微笑むから、俺も笑う。 「じゃあ、俺は帰るわ。メリークリスマスお二人さん」 「おう」 優司は帰って行った。 部屋の中は暖かい、それなのに雫はくるまった布団をガタガタと揺らしていた。 「寒いか、雫。大丈夫か?」 「…さ…寒いよ…頭痛い…」 か細い声で雫は言う。 どうしたらいいか分からずに、ネットで検索した。 『濡れた衣類を着たままではいけません。必ず脱がして、熱いお湯のお風呂に入れて、長湯はせず、入浴後は暖かい部屋で暖かい布団に首まで隠れるように包み込み、寝かし付けます』 俺は熱いお湯を浴槽に溜めて、やむを得ず雫の服も下着も脱がして、丸裸の状態で抱きかかえて、風呂にゆっくり入れてやる。 「…好人…ごめんなさい…」 うわ言みたいに何度も言う。 身体を拭いてやって、着替えさせて、またベッドに寝かす。 謝るくらいなら、最初からこんな事するな。 俺は何度も雫の髪を撫でて、側に居る事を伝える。 人を守るって事は、こういう事か。 俺は雫の彼氏。 俺は雫の兄ちゃん。 俺は雫の親父。 それから、この先は? 「…好人…」 おまえが、俺の名前を呼ぶから。 俺は布団の中に入り込み、ギュッと強く抱き締めた。 「俺はここに居る。いつもここに居る。おまえはいつも、俺のここに居ればいいんだよ」 「好人…寒いよぅ…」 雫の言葉に、再び強く抱き締めた。
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