116人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
雫エピローグ
お城の中には、永居 好人というお殿様がいました。
お殿様は、私にとても親切にしてくれました。
牛丼やジュースだけじゃなく、見ず知らずの私と一緒に住んでくれて、仕事の面倒から、大切な友達まで私に与えてくれました。
キスの仕方からエッチな事も教えてくれて、結婚もしてくれました。
お殿様の子どもは、どんな顔で生まれてくるのかなぁ。
玉子みたいにコロンと出てきて、鬼みたいな顔してるのかなぁ。
なぁんてね。
私は記憶障害…本当は違う。
おばあちゃんやおじさんが、血の繋がりがない事はとっくに知っていた。
学校は義務教育しか出てないし、身寄りのない私が周りから親切にしてもらえるには、頭が悪いふりをするしかなかった。
忘れた、知らない、分からない。
そう言って生きていくしかなかった。
嘘はやがて本当になって、嫌な記憶はどんどん薄れていった。
こんな私は、小さい頃。
物影からこっそり聞いた母のように、いつかは失踪自殺をするつもりだった。
何もない、最初から必要のない人間なんて、この世にいる意味なんてないのだから。
キスだって、セックスだって経験はある。全部、行きずりだけど。
好人は、何も知らない。
私が好人に対して思う事は。
バカなふりをした私を、どれだけ支えてくれるのか、今とその先が知りたい。
人は信じない、心の底から愛したりはしない、そんな孤独な私をこの人はどれだけの愛を持って、継続して注いでくれるのか。
私も母のように、いつか我が子を捨てる日が来るかも知れない。
私自身が死ぬかも知れない。
その時に好人は、どう私に優しく接してくれるのか。
この男に、人生を賭けてみたい。
玄関の扉が開く。
私はまたバカなふりをして、駆け寄る。
「好人っ♪おかえりぃ☆」
「ただいま、どうだ腹の子は?」
「うん、コロンコロンしてるぅ☆」
「そっか。飯にしよっか」
「うん!」
永居 好人に賭けてみたい。
最初のコメントを投稿しよう!