⑤私、思い出せない

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一旦、会社に戻り。 俺は慌てて、昼休憩の時間を使って家に帰った。 途中コンビニに寄り、雫の昼飯にサンドイッチを買って行った。 家に着く頃に、ふと気付く。 自分の昼飯を買うのを忘れた。 アホ丸出しじゃんよ、俺。 鍵を開けて、すぐさま部屋を見渡す。 「雫」 「あっ、帰ってきた」 「一人で平気だったか?誰も来なかったか?」 「うん。ずっとコケ丸と対話してたから」 だから、喋んねぇつーの。 「サンドイッチ食うか?」 「うん」 雫はサンドイッチを、手渡されたらすぐさま無邪気に食べていた。 そういう障害か。 記憶がどんどん消されていく。 おまえは、そんな障害があるのか? だから、身内に一緒に住む事を拒否されたのか? 「雫、昨日の夕飯何食べたか覚えてるか?」 「覚えてない」 「風呂上がりにアイス食べた事は?」 「たぶん、アイス食べたかも…」 覚えてないって、そう言って返ってくるのを分かっていながらも俺は質問した。 だか俺は、ショックだった。 してあげた事が、雫の中ですぐに抹消されていくのが、何となく理解してきたから。 「ちなみに、俺の名前は?」 バカだな、俺は。 すぐに答えられない雫を俺は、ジッと急かすように意地悪に見つめた。 「永居 好人…」 言えるじゃねぇかよ。 ホッとした。 「アタリだ」
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