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答えられないで、分からないと言われたら…。
なんて、思ったりもしたから。
「好人っ」
「何だ?」
「好人、好人っ」
雫は何度も俺の名前を呼ぶ。
「だから何だ?」
ふざけて、呼ぶのもいい加減にしろよ。
俺はホッとしたからか、笑いが込み上げてきた。
「私、他の事は忘れちゃっても…好きな人の事は忘れないよ…」
えっ…………。
雫はジッと俺を大きな瞳で見つめて、更に引き寄せた。
「ありがとう、好人…。ずっと、忘れないよ…」
何か今、雫が違う生き物に見えた。
今の雫の言葉が、あまりにもしっかりと俺に響いてしまって。
「今、何て言った?」
「好人…」
「違う、その前だ」
そして、雫はまたサンドイッチを頬張りながら言った。
「思い出せな~い、分かんな~い」
嘘だ。
どこまでが演技で、どこまでが本当なんだ。
雫は俺の口にサンドイッチを挟み入れた。
「一緒に食べよ♪」
俺は今、
間違いなく、
雫の中に居る、
本物の雫を見た気がした。
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