⑥私、知らない

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雫を車に乗せて、ハガキの住所をナビに登録する。 だいたいは、場所は分かった。 「雫は何でも食べられるか?」 「うん、食べられる♪」 じゃあ、たまたま国道脇に見えた回転寿司へと入る。 雫は嬉しそうに、一番安い玉子の寿司ばかり食べている。 「玉子好きか?」 「玉子好き。好人も、ゆで玉子みたいで好き」 意味分かんねぇし。 「ツルツル、ムキムキゆで玉子~♪」 俺は辺りを見渡して、 「みんなが見るから、突然歌うな」 と小声で教える。 「プルプル、ツヤツヤゆで玉子~♪」 「やめろ。一体何の歌だ、それ」 「好人の歌だよ」 雫じゃなければ、俺はとっくにキレてるぞ。 「あっそう」 そんなふうで、一人でどうすんだよ、これから。 「雫は記憶力が悪い以外は普通何だろ?」 「普通?」 「いや、すまん。変な聞き方したな。例えば発達障害だとかさ、重い脳の病気だとか」 「私、そんなふうに見えるの?」 「うそうそ、今のは無し」 「健康だよ」 雫はそう明るく笑って寿司を食べる。 「友達とかは居るの?」 「いるよ。でもみんな仕事が忙しいから、ずっと会ってないよ。だから忘れちゃった」 「まぁ、会わないでいると忘れても無理ないよな」 当たり前の事は言っている。 知能遅れや言語障害はないみたいだ。 「おばあさんはどんな人だったんだ?」 「優しくてね、いつも美味しいご飯作ってくれてね、ずっと一緒に居てくれてね、 楽しい話をたくさんしてくれてね …大好きだったの」 「そうか、おばあさんの事は忘れてないんだな」 「好きな人だから」
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