⑥私、知らない

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雫はあれからずっと黙ったままになってしまった。 結局のところ、俺は何が言いたかったんだろう。 ナビにそって、車を走らせた。 とある民家が続く狭い道に差し掛かった。 そして、草木が生い茂る古い木造の一階建ての家が見えてきた。 もしかして、ここか? こんな、とこ。 って言ったら失礼だけど、こんなとこに雫とおばあさんは住んでいたのか。 車を駐車場へ停めて、さっきから元気のない、うつむく雫を車から下ろして、本人に確かめさせる。 表札は『月読』。 「雫とおばあさんの家は、ここか?」 「……」 「雫?」 小さくうなずいた。 「近所に知り合いはいないのか?もう身内が頼れないとなると近所の人しか…」 「私、知らない。今の近所の人はみんな知らない人達ばかりだから、知らない…」 確かに、周りの家は建て直したばかりの真新しい家ばかりだ。 雫は家の中になかなか入らない。 仕方なく俺は、 「今日は俺が雫の家にお邪魔するよ。そうだな、寿司食った後は口が渇く…。お茶をいっぱいくれるか?」 少しだけ優し気に雫に問いかけた。 雫は、更に小さくうつむきながら、返事をした。 「うん…」 家に入れたくないのか? 「雫、鍵を貸しな?」 雫はカバンから鍵を出して、俺に手渡す。 何か様子がおかしいのは、さっきから分かっている。 俺は雫の手を握って、門をくぐり抜け、玄関の鍵を開ける。 靴はカラフルなサンダルやスニーカー。 サイズからいって雫のだな。 気持ち悪いほど片付いた居間が見える。 「お邪魔します」 さっさと雫を連れて入る。
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