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何だ…。
居間には、テレビすらない。
ちゃぶ台一つが置かれていた。
きれいに片付けられていて、本当に他には何もない。
「雫。どこが、おばあさんの部屋なんだ?写真とかないのか?」
一応この家は今は居なくても、主はおばあさんだ。その主には、手を合わすのは常識だからな。
「ない…何もないよ…」
俺はそんな小さな声は聞こえず、それらしき部屋へと入る。
……嘘だろ。
その部屋には全て何もない状態になっていた。
残っているのは、畳に焼けたタンスなどのシミだけ。
その先には洋間の扉。
少しだけ開けると、薄暗い部屋の中は雫の部屋なのか、図鑑やぬいぐるみや脱ぎ捨てられた下着や服が散らばっていた。
どういう事なんだ。
俺は急いで、雫の居る台所へと戻る。
しかしその台所も、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、隅に置かれた剥き出しになったわずかな食器しかなかった。
明らかに、その食器は雫のだと分かった。
「コップは私のを使ってね」
そう言って、麦茶の入ったコップを手渡された。
雫はというと、麦茶を味噌汁のお碗に入れて飲もうとしていた。
俺は驚いてしまった。
それと同時に何やら腹立だしいような、やるせない気持ちになった。
「雫は自分のコップで飲めばいい。俺はこれで充分だ」
一気にお碗に入った麦茶を飲み干して、俺は怒り口調で言った。
「おばあさんのものが一つもないのはどうしてだ!」
「…私、嘘ついてないよ」
「そんな事は聞いてない!」
何となく分かってしまったから、余計に怒りが込み上げる。
「親戚か?親戚がみんな片付けて、わざと雫のものだけ残していったんだろ!」
人ごとなのに、久々にムカついた。
「おばあちゃんは、みんなのおばあちゃんだもん。仕方ないよ。その代わり、私はずっと今まで一緒に居て独り占めしてたから、いいよ」
そんなふうに言ってるけど、俺には雫の口唇が震えているのが、分かる。
「平気…。どうせ、そのうち全部忘れちゃうから…」
俺はムカつき過ぎて、流し台をおもいっきり殴った。
…バンッ!!…
「やめろ!もう言うな!」
雫はビクリと驚いて動けなくなった。
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