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月読 雫は、俺と住む事になった。
連れて帰った日は、俺の怒った姿を見せてしまったからか。
それとも、何もない家の中を見られてしまったからなのか。
雫は無口だった。
何が何だか、何となく俺と住む事が理解しているのかいないのかは、雫の頭ん中じゃねぇから、俺にはさっぱりだけど。
ぎこちないような、いつもの毎日とは違う場所から朝を迎えると言う事で、記憶が曖昧でも頭の中では理解できているようだった。
雫は連れて帰った日から、しばらく夜中にうなされ続けていた。
隣で俺が寝ていてやっても。
「…ふぇぇん!おばあちゃん!……ふぇっ!……」
時々、俺から起こしてやる時もあったり。
自分でビックリして飛び起き、とにかく無我夢中で泣き付いて来る時もあった。
「よしよし…もう怖くねぇからな」
汗ビッタリで、息苦しそうに言う。
「おばあちゃんが、おばあちゃんが…」
だいたい察するに、同じ夢を見ている気がする。
たぶん、おばあさんが倒れたか死んだ時ので。
「どうした…」
俺の死んでしまったばあちゃんも、みんなのばあちゃんで。
俺の両親や近くに住む親戚全員で入院先に交代交代で見舞いに行っていたっけ。
だから、俺には雫の思いは分からないけど。
おばあさんに死なれた絶望感。
親戚におばあさんを奪われた失望感。
何もできない自分への劣等感。
それから、世話になった罪悪感だとか。
色々なもんが、雫の頭の中に詰まっていて。
「…好人っ!…好人っ!…」
とにかくガムシャラに俺の名前を呼ぶ。
「おう。大丈夫だ…大丈夫」
そう言ってまた、雫を寝かし付ける。
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