⑦私、ここに居たい

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雫はまたノートを見て、覚えている。 「名前も忘れちゃうのか」 俺は、うなずいた。 「そうか」 優司は真面目にうなずいた。 「優司さん……優しい……優しい人……」 「えっ?ちょっと今、ドキッとしちゃったんだけど」 雫の言葉に優司は胸を押さえていた。 「そうやって覚えてるんだよ、雫は」 「そうなのか」 「前田 優司さんね」 「はい、そうです」 優司と雫は顔を見合わせていた。 雫が優司に微笑んだのを見た時に、何だかそれが俺に向けられていないのが…。 「茶髪のロン毛のピアスって、ついでに書いとけ。雫」 「うわっ、俺の自慢をそんな言い方」 優しい人か。 優司は確かに俺とは違って優しいよ。 話上手で乗せ上手、聞き上手。 相手に合わせて調子良く、物腰の柔らかい言い方で、相手の中に入っていく。 真面目な話も、楽しい話も、下ネタも何でも爽やかに話す。 俺にはできないね。 俺はそんなに器用には話せない。 ムカついたらムカつくし。 話したくない時は、話さない。 ふて腐れてるだとかキツイとか冷たいとよく言われる。 いちいち言われるのも不愉快だったり面倒だから、俺は余計に他人と関わらない、話さない。 そんなふうにしてる。
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