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休みの日に、優司と俺は雫を連れて、雫の住んでいたおばあさんの家に荷物を取りに出掛けた。
車の中で、音楽をかけると雫は以前よりも楽しそうにノリに乗って踊るから、
「こらっ、揺れる…車が揺れる!」
運転する俺も集中力がなくなる。
「いいじゃないですか、好人くん。楽しいのが一番ですよ。ねぇ、雫ちゃん?」
後部座席で同じようにノリに乗る優司。
俺の家まで、車を乗り付けて、なぜおまえは俺の車に乗り込むんだ。
「えっと、名前が思い出せないけど楽しいね」
雫は優司を見て、考え込んだ結果。
やっぱり、もう忘れたんか。
「初めまして、優司です」
「はい、優司さんでした」
何、言ってんだコイツら。
「雫ちゃんとは、毎回会うたびに初対面だから何だか凄い新鮮だわ~」
「えへへ、誉められた」
俺は嬉しそうな雫の顔に、何かムカついて、
「…アホらしい…」
遠くを見た。
名前すらも覚えてもらえない事を気にしろや。
どこまでも前向きな優司の性格に、俺は鼻で笑って、すっ飛ばす。
「雫、おまえの荷物なんだけど処分できるのは処分して行こうな。全部は俺の家には入らない。それぐらいは分かるよな?」
「うん。分かった」
「優司も荷物運ぶってのに車出さないなんて、おまえを連れてく意味がないだろが?」
「何を言うか。好人のこの黒塗りの無駄にデカイ、スーパーワゴン車なら何でも乗るだろ?俺なんか軽自動車だから足元にも及ばない。すまんな」
「ったく、最悪だなコイツ」
まぁ雫の荷物ったって、残りの服と雫の大切にしてるモノくらいだろうけど。
こないだ雫の家に行った時は、雫の様子がおかしかったけれど、今日は優司もいるせいか気持ちが落ち着いている。
記憶が消えてしまうと言っても、どっかで何かしら残っていたりするもんなんだと、雫を見て思った。
例えば、一番思い出したくない事は覚えていたり。
一番楽しい出来事は、思い出せなかったり。
きっと、苦いことは時間の流れが長く感じて、嬉しい事はいつでも一瞬で終わるからだろう。
それは、俺も同じだ。
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