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雫は自分の家に着くと、少しだけさっきまでの元気を無くしていた。
やっぱりつらいんだな。
俺と優司は、鍵を借りて先に家に上がった。
「ここか…お邪魔します」
「お邪魔します」
優司は辺りを見渡し、何もない室内に固まっていた。
「…痛いな…」
「だろ?」
雫は自分の部屋を片付けに行き、俺と優司はおばあさんの部屋へと向かった。
優司と俺は、手を合わせておばあさんの部屋に入る。
その何も残されていない部屋に、優司は言った。
「今までの思い出を、ごっそり思い出せないくらい、持って行かれた…って感じだな」
畳の日焼けしたシミだけが、雫が思い出せる、おばあさんとの唯一のモノだなんて。
「酷な事、やってくれるぜ…」
「…あぁ、俺もそう思ったよ」
深い溜め息をついたのは、優司も同じだった。
それは台所へ行っても、そうだった。
流し台に置かれた、雫のわずかな食器を目の当たりにして、優司は絶句していた。
「たまらんな…有り得んぞ…」
「一つしかないコップで、俺にお茶をくれた時に、雫はこのお碗でお茶を飲もうとしたんだ…」
「マジか」
「親戚は雫を完全に見捨てた。雫はこの先、一生独りだと言い切ってるようなもんだ…」
「だから、雫ちゃん独り分の食器しか残されていないという訳か…」
俺はあの時の、雫の震える口唇から発した言葉を思い出していた。
「どうせ、すぐ忘れちゃうからいいって。そんなふうに思ってもいない癖に、アイツそう言うから。俺がキレたっつーの」
「そうか…」
優司はしばらく黙ったまま、雫の食器を見つめていた。
それを見て、優司は何を思っただろう。
「好人、今から親戚に電話してやろうや?」
「はっ?」
俺は目が点になった。
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