⑧私、寂しくない

4/8
前へ
/156ページ
次へ
雫は自分の家に着くと、少しだけさっきまでの元気を無くしていた。 やっぱりつらいんだな。 俺と優司は、鍵を借りて先に家に上がった。 「ここか…お邪魔します」 「お邪魔します」 優司は辺りを見渡し、何もない室内に固まっていた。 「…痛いな…」 「だろ?」 雫は自分の部屋を片付けに行き、俺と優司はおばあさんの部屋へと向かった。 優司と俺は、手を合わせておばあさんの部屋に入る。 その何も残されていない部屋に、優司は言った。 「今までの思い出を、ごっそり思い出せないくらい、持って行かれた…って感じだな」 畳の日焼けしたシミだけが、雫が思い出せる、おばあさんとの唯一のモノだなんて。 「酷な事、やってくれるぜ…」 「…あぁ、俺もそう思ったよ」 深い溜め息をついたのは、優司も同じだった。 それは台所へ行っても、そうだった。 流し台に置かれた、雫のわずかな食器を目の当たりにして、優司は絶句していた。 「たまらんな…有り得んぞ…」 「一つしかないコップで、俺にお茶をくれた時に、雫はこのお碗でお茶を飲もうとしたんだ…」 「マジか」 「親戚は雫を完全に見捨てた。雫はこの先、一生独りだと言い切ってるようなもんだ…」 「だから、雫ちゃん独り分の食器しか残されていないという訳か…」 俺はあの時の、雫の震える口唇から発した言葉を思い出していた。 「どうせ、すぐ忘れちゃうからいいって。そんなふうに思ってもいない癖に、アイツそう言うから。俺がキレたっつーの」 「そうか…」 優司はしばらく黙ったまま、雫の食器を見つめていた。 それを見て、優司は何を思っただろう。 「好人、今から親戚に電話してやろうや?」 「はっ?」 俺は目が点になった。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加