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「雫は、ご存知の通り記憶障害でして。さらに人と変わっておりますから、ご迷惑おかけすると思いますが、宜しくお願い致します」
「僕はそんなふうに接した事は一度もありませんので、ご心配なく。むしろ素直で優しく可愛い魅力的な女性です」
「そうですか、ありがとうございます 」
何が、ありがとうございますだ。
優司も何を、ウダウダやってんだよ。
「障害と聞くと、すぐさま偏見を持たれる方がいらっしゃいますが、今はそれも個性や才能だと重視される世の中になりつつあります」
「…そうかも知れませんね」
「僕は自分たちと何かが違うからと、簡単に偏見と片付けて、見捨てたりする行為こそが、偏見極まりない行為だと思っています」
「…偏見ですか…」
「弱いものは、強いものが助けて、守って支えてあげるのが、人間としての基本ですからね」
「…ごもっともです」
「僕は雫さんの大切な思いを奪ったりはしません。記憶があやふやならば、どんどん溢れるくらい楽しい思い出を植え付けて行こうと思っております。ハガキ読まさせて頂きました。施設などとお考えならば、できましたら雫さんとは縁を切って頂き、彼女の一切を僕に譲って頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「…分かりました…」
簡単に言う、このオヤジの声に。
俺の拳が震えた。
優司は俺の肩を軽く叩く。
「では、今後一切雫さんとは関わりのないようお願い致します。もし、連絡する場合は僕を通して下さい。永居 好人と言います」
「はい、承知しました」
「では、一旦失礼致します」
優司は長々話した電話を切った。
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