⑧私、寂しくない

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しばらく俺と優司はまた黙ったまま。 俺はあんなにうまくは話せないが。 優司の熱心に話す大嘘も、嘘のようで優司の本音も入っているんだろうなと思った。 「ザクッとこんなもんで、どうだ?」 優司はピースして笑う。 「完璧だな、さすが嘘つき」 「嘘もほうべんだ。聞いててどうだった?永居 好人と出会えて、雫ちゃん幸せそうだっただろ?」 「まぁな、確かにそんな感じするわ」 話を作るのが、上手すぎる。 あんなクサイ言葉をよく吐けるよ。 でも、 「ありがとな…」 優司だから出来ることなんだよな。 「協力するって言っただろ?好人の不器用なところは、俺がフォローするって」 本当に、おまえは優しい奴だ。 俺と優司は、ほったらかしにしていた雫の元へと向かった。 散らかったままの雫の部屋。 雫はウサギの汚いぬいぐるみを抱き締めて、部屋の隅で丸くなって眠っていた。 「片付けに来て、寝てる…」 「優司と俺にこんな思いさせて、しょうがねぇ女だな」 俺は溜め息をついて、思わず笑ってしまった。 「雫ちゃん、寝顔可愛い」 優司は気安く雫に近寄るもんだから。 「触るな」 俺は優司を叱った。 「うほっ、コワッ」 こんな汚ねぇ真っ黒の、白いウサギのぬいぐるみも、雫にとったら大切な思い出の一つか。 俺の部屋には不釣り合いだが、今日はこれを持って帰るか。 本人が寝てしまっては、どうしようもない。 雫をおんぶして車に乗せて、引き上げる。 優司に運転を交代してもらい、後部座席で俺の膝を枕にして、雫は眠る。 汚ねぇし、何か臭い。 このウサギのぬいぐるみ。 なぁ、雫? 持っていくものは、そんなに要らなくてもいいだろう。 あんな晒し出された食器も、捨てちまえよ。 服だって、なんだって。 俺が全部、新しいの用意してやるから。 おまえには、これからは俺が居るから。 寂しいだなんて思いはさせない。 おまえの記憶がぶっ飛ぶくらい、毎日何度だって、楽しい思いをさせてやる。 おまえの寝顔に、俺は誓うよ。
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