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雫は俺のタイプの女じゃない。
だから、恋愛感情はない。
ただの記憶力の悪い、赤ん坊みたいな、世話のやける女。
「好人っ、好人っ、早く帰って来てね♪」
でも、何だか当たり前のように玄関で手を振り見送る雫に、
「おう、行ってくるわ」
そうやって俺も当たり前に言ってしまうのは、一体何なんだろう。
放っておけなくて。
守ってやりたくて。
俺は今まで、好きな人以外に、こんなに他人の事で親身になった事はない。
当たり前の話しだけど。
他人は自分と同じで、選択肢の答えはいつも自分の中にあると思っている。
それを、全部俺が決めるだなんて後々面倒くさいから、口を挟む事もせずに放置してきた。
だから、他人に冷たいとよく言われる。
元々、誰かに何かしてやろうだとかも思わない俺は、自分の話をするのも苦手だ。
自分の気持ちだとか、心意みたいなもんなんて、別に他人なんかに知ってもらわなくてもいい。
俺は俺。
他人は他人だから。
そう思いながら何十年も生きてきてるからか、言葉にもトゲがあるだのキツイだの言われたりする。
だから、何だつーの。
そういうふうに、俺は他人様から思われているらしい。
どうでもいい事なんだけど。
『月読 雫』か……。
親戚の奴らには、頭にきてたのは確か。
優司の嘘にも、すっきりはしたが。
あの女が、俺の彼女。
はたまた、婚約者。
……無理だろ。
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