⑨私、どうしたらいい

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仕事場に着くと、リサと事務所の前でばったり会った。 「おはよう、好人…。あっ、永居くん」 気を使ってか、俺の名前をわざわざ言い直すリサに、距離感をまじまじと感じた。 「おはよう…」 付き合っていた期間が短かったのは確かだか、もう本当にリサとは深い繋がりはなくなっているのだと思った。 俺は未練たらしいのか、リサと呼び捨てているのに。 「お先に、どうぞ」 そう言って、出勤スキャンを譲る。 「あぁ、どうも」 他人行儀なリサに、俺もわざと遠慮がちな態度をとる。 やっぱり多少は俺に悪いだとか思って、気を使ってんのかな。 「…何かあった?最近」 「何かって?」 リサから突如、話し掛けてきた。 「前田くんと楽しそうに話てるとこ、よく見かけるから」 「別に」 「誰か好い人でもできたのかと、ふと思っただけ…」 好い人? 「そんなもん居ねぇし」 そんな別れて、すぐそんなもん見つけて付き合うような事は、俺はしない。 寂しいだけで、そんなもんは要らねぇ。 って、何故だか雫の顔がチラついた。 「あら、私の思い違いか。結構私の勘は当たるんだけどね」 「いいよ、んなもん。それよか自分の幸せだけ考えてろよ」 俺は、どうしてこんな言い方してしまうんだろう。 強がるって言うか、やっぱりリサの前では素直に慣れないガキみたいな態度を取る自分が今でも居る。 「また、そんな顔して」 リサは俺より強いから、俺はリサにフラれた…か。 そうこうしてると、社長の息子がリサを見つけて図々しくやって来た。 「リサ、おはよう。…永居、何やってんだ?早く作業準備して来いよ」 うるせぇ、おまえが俺に指図すんな。 「はいはい」 「朝イチおまえは、また草むしりだ」 「はぁ?」 俺は笑って言うそのバカ息子に、眉間にシワを寄せて嫌な態度を取ってやった。 「これは業務命令で、尚且つご指名だから、誰かと交代は不可能だ」 さすがにリサも言う。 「それ、本当に?」 「いや、本当だ。永居は丁寧だと評価を受けたから」 コイツ、絶対嘘ついて、俺を陥れている。
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