⑩私、草むしりでいい

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仕事も終わり、帰ろうとする俺に声が掛かった。 「永居くん、ちょっと…」 リサだ。 「何?」 俺はリサに上着を摘ままれて、人気の居ない場所へと連れて行かされた。 「何って、何か私に話したい事があるんじゃないの?」 「はっ?何の事。俺は別に」 「草むしりのアルバイト、永居くんの紹介で入りたいって子が居るんでしょ?」 鈍い俺は、やっと今気が付いた。 優司、まさかもう話を進めていたとは。 しかも、優司の苦手なリサにこの話を持っていってたなんて。 「優司か?」 「まぁ、いいじゃないの。私からアルバイトの話を上げて頼んでみるから。永居くんも、もう一度その子の意志をきちんと確認して、私に返事をちょうだい」 「あぁ、…世話かけて申し訳ない」 結局、また俺は何もしないまま。 「あら、何故謝るのかしら?私が出した提案だから、私から社長に話を持っていくのは当然でしょ?」 いや、その、そう言う事じゃなくて。 って、やっぱりリサの前ではどこか遠慮がちに一歩引いて話をしていた。 優司は賢いな。 確かにリサを通せば、必ず社長も息子も誰も反論せずに簡単に話がまとまる。 上の者に有無も言わさない、隠れた権力者のリサを気に要らないと言っていた優司が、まさかな。 雫を守ると決めた俺のためにか。 俺には、そんな苦手な奴に頭下げたりなんてできねぇ。 「分かった、きちんと話しとく」 「誰にだって、その人にしか出来ない事ってあるのよ?その時はその人に任せたらいいの。永居くん、ちょっとスンナリいかない所があるから」 「………」 何も言い返せない。 リサに上から言われてる感じ。 「あなたのそう言う態度や口振りで、傷付く人も居るかもしれないわ。気にして欲しいなら、ちゃんと気持ちは相手に通る言い方しないと、大人げないわ」 「……だから、俺はフラれたってか」 俺はまだ、しっかり吹っ切れた訳じゃないのに。 散々言ってくれるよな。 「月読 雫ちゃんには、あなたしか居ないんだから、そんな弱い事を言ってたらダメじゃないの?」 えっ……。 何で……。
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