⑫私、キスしていい

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家に帰り、雫は本当に玉子焼きを作ってくれた。 それしか出来ないからなのか、かなり上手に巻いていた。 おかずなんて、これで充分だ。 甘味のある玉子焼きは、意外と俺好みの味で、驚いた。 「うまい、気に入った。また、玉子焼き作ってくれよな」 「えへへ☆」 全然普通じゃねぇか。 普通より、ややボケ気味の、小学生みたいな女じゃねぇか。 「今日、会社で雫の草むしりの話をしたんだ。そしたら来週の木曜日に面接な。おまえが覚えてなくても、俺が覚えておくから心配するな」 「うん」 「履歴書持参だから、また来週になったら書き方教えてやるからな」 「うん」 あんまり、分かってないような気もするが、このまま毎日家の中に居るよりは、時々外に出ていた方がストレスも堪らないからな。 もう、雫と知り合って一緒に住むようになり1ヶ月はたった。 割りと早い展開で、毎日過ごして居る。 こうなる事は、今までの俺の中では有り得ない事で。 まさか、こんな女を家に入れて、他人の事に世話までやいて、情を感じて一緒に住む事になるとは。 どうでもいいって、流して無視してきた感情が、雫に対しては流せないだなんて。 俺も年か…。 「好人っ♪」 「何だ、おまえ。飯つぶ付いてる」 こうやって、この女の口元に付いた飯つぶまで親切に取ってやる俺は。 「ありゃ」 「ありゃじゃねぇよ」 そうやってやってる事の感情を恋愛感情と呼ぶならば、それはそれで認めるべきなのか、俺は?
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