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優司は何か俺から聞き出したくて、何度も雫の話を出すのだか。
俺は一切、何も言わなかった。
当たり前だ。
キスまでして、その先を何度も躓いているだなんて言える訳ないっての。
日々悶々としてるだなんて、絶対誰にも恥ずかしくて言えない。
それよりも。
「おまえ、いつからリサと仲良くなったんだ」
「リサ様を、俺は何だか誤解していた。でも、直接雫ちゃんの事で話をした時に、自分の利益や評価、損得で動く人間じゃないんだと分かったんだ」
優司はポットに入った花の苗を、眺めながら続けて言った。
「障害はなくとも、人に偏見は良くないって言い切っといて、自分が偏見であの女を見てたらダメだもんな」
「まぁ、そうだな。俺からしたら、おまえもリサも、周りを上手に使って動かせるから似た者同士に見えるけど」
「好人ももう少し素直で明るく優しけりゃ、みんな楽しく自分に付いてくるのに。おまえは短所を表面に出し過ぎて、長所を引っ込め過ぎだから、善い面を知るのに時間と手間がかかる」
また、俺を語っている。
俺はわざと優司に土を引っかけた。
「うるせぇ、うるせぇ。善い奴なんぞ、クソ喰らえ」
俺は花の苗を植替える。
「可愛い小さな花をそうやって丁寧に扱うように、好人も雫ちゃんに人一倍優しく丁寧にしてやらなきゃいかんぞ」
俺は優司を真っ直ぐ睨み付けた。
言われなくても俺なりにしてる。
だから、今一歩のとこで中断する。
何がって……その何がだが。
「で、やったのか?ついに、やったのか?」
「しつけぇぞ、早く植替え進めろよバカッ!」
優司はお喋りだから、ちっとも作業が進まない。
早くこれを終えて、俺は雫と昼飯が食べたいんだ。
面接、うまくいってるといいな。
早く会社に戻りたい。
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