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「俺達の、新しい門出に、乾杯!」
後藤元が、缶ビールを高く掲げ、自棄気味に声を挙げた。
「…ふざけんなよ。」
井手出流が、鋭く声を発した。
「…」
若山渉が、無言でビールをぐい、とあおった。
「…もう、いいじゃない。出流…」
野本渚が、ビール代わりの缶ジュースを見詰めながら、悲し気に呟いた。
「畜生おぉ!」
出流は、飲みかけの缶ビールを、海に向かって投げ付けた。
四人は、浜辺で、ラストライブの打ち上げを開いていた。
四人の頭文字を繋げて結成したアマチュアバンド“WING”は、三年の活動期間の末に、解散の時を迎えていた。
「…神様って、不公平だよな。」
元が、自嘲気味に笑った。
「今度、“ラビッツ”からメジャーデビューするバンドのヴォーカルなんか、まだ高校生だぜ?」
「…矢崎栄一な。」
渉が、苦笑しながら応えるように呟いた。
“ラビッツ”とは、WINGが主に活動拠点にしていたライブハウスの名前だ。
「…所詮、才能が違うのさ。」
「才能って何だよ!」
出流が噛み付くように叫んだ。
「どんなに練習したって!どんなに演奏したって!才能って奴にゃ、俺達は敵わねぇっつーのかよ!」
「もう止めてよ!」
渚の声に、出流は、漸く口を閉じた。
四人は、暫く、互いの顔を見ないように、俯いたまま、黙り込んでいた。
「…もう、終わったんだ。」
やがて、渉が、ぼそりと呟いた。
「終わったんだよ。WINGは。」
「…」
「…」
「…」
渉の、その言葉を最後に、四人は、誰一人、言葉を発しないまま、散会した。
「…ねぇ。」
もう、うっすら夜も明け始めた、帰り道。
たまたま、同じ方向に帰る渚と渉は、並んで歩いていた。
「…ん?」
渚の呼び掛けに、渉は、振り向かず、声だけで応えた。
「…今日も、来てたね。」
「…誰が。」
「…気付いてない?」
「だから、誰が。」
「…分んないんなら、いいや。」
「…何だよそれ。」
「いーのいーの。だって…」
もう終わったんだもんね、と言う、微かな渚の声が、渉の耳に、突き刺さるように響いた。
「…じゃ、私、こっちだから…」
「…おう。」
「…さよなら。」
「じゃあな。」
二人は、違う道を、それぞれ振り向かずに歩いた。
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