彼は甘く囁く

表の顔、裏の顔

｢却下は却下だ｣
　ブスッとした表情で、柏木が言う。ったく、この社長はどこまで人をイラつかせるんだ。私はさすがに頭にきて、　
｢我が儘をおっしゃらないでください！社長のスケジュール管理は秘書の仕事です。これは立派な職務妨害です！｣
　と叫んだ。柏木は、チッと舌打ちをして、　
｢誰も秘書さんに仕事してくれなんてお願いしてませんが？｣
　と言った。何なのその言い方は。全く頭にくる。　
｢お願いされてなくても仕事は仕事でございますから｣
　苛立ちが声に出てしまう。ムカつくったらありゃしない。　
｢なら、お願いしてごらん｣　
　急に柏木は微笑を浮かべて、私に近付くと耳元で囁いた。顔近すぎっ！！　
｢お、お願いなんてしません｣
｢社長が仕事してくれないと困るんだろ？｣
　甘い声で耳元で囁く柏木。顔は何か企んでいるような笑みを浮かべていて、色んな意味でゾッとする。