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5番の女性は30代後半くらいに見えた。
そこから想像するに、彼女の両親は若くても50代、もしかしたら60、70代だってありえる。
そのくらいの年齢の両親ならば、誰だって身体のどこかに調子の悪いところがあってもおかしくない。むしろどこも悪くない人を見つける方が難しいと思う。
この霊能力者は、誰にでも当てはまる事を言っているだけのようにしか私には見えなかった。
でもそんな私の思いとは反対に、5番の女性は霊能力者の言葉を聞いた後、大粒の涙を流して泣いたのだった。
そして彼女は言う。
『そうです。母が末期のガンだって、先日医者に言われました。もう、あと2ヵ月もつかどうかって……』
泣き崩れる女性に、そっと手の添える霊能力者。
私には、本当にそこまで彼女の抱える事情が視えていたか疑問だった。
でも会場内には割れんばかりの拍手が鳴り響いていた。
そして霊能力者は、付き人に無言で合図を出し、何かを持ってこさせた。
『このブレスレットをお母様にお渡しください。きっとあなたもお母様も苦しみから抜け出せます』
5番の女性は、何度もお辞儀をして、そのブレスレットを受け取った。
霊能力者は、34番の女性の抱える悩みも、誰にでも当てはまるような事を言って、見事当てたかのように見せた。
そしてまたブレスレットを渡した。
次は友人の番になった。真剣な表情の友人に向かって、霊能力者は優しく微笑んだ。
『あなた、近々人生で幸せな瞬間を迎えるようですね』
友人は驚きと喜びの表情を見せ、言った。
『はい、もうすぐ彼と結婚するんです』
しかし、霊能力者が放った言葉によって、友人の顔は一気に曇った。
『その彼には、あなたの他に女性の影が見えます』
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