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その場に近付くにつれ、罵声が聞こえてくる。
「喧嘩…?」
不安げな楓の声にアレウスは進めていた足を止めた。
「…いや、これは違うな…1人の声しか聞こえねぇ。 楓、怖いなら離れてろ」
「…今はアレウスの傍の方が安全だと思う…」
「なら離れんなよ」
そう言って2人は再び歩き始めた。
やがて人集りに辿り着くと、10代半ばの若い男が円の中心で罵声ではなく、奇声のようなものをあげており、アレウスにはその様子が伺えた。
(…あれは…)
若い男の首筋辺りに、見覚えのある傷が僅かに見えている。
それを見るなりアレウスは表情を曇らせた。
(…光引と同じじゃねぇか。 ……あ?)
更にアレウスはある事に気付き、今来たばかりのその場から、楓の手を引いて離れてしまう。
「アレウス…どうしたの?」
一定の距離まで来ると楓が不思議そうに声を掛けた。
そして、人気のない所まで来ると足を止め、アレウスは楓に向き直る。
「楓、今すぐ自分の貴重品があるか確認しろ」
そう言いながらアレウスは自分が持つ、財布や携帯などをポケットから出し、存在の有無を確かめている。
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