荒野での話

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ある日の事。 近くになんの建造物、それどころか木さえ見当たらない殺風景な荒野を、一台の大型のトラック型の魔動車が走っていた。 その運転席には若い女性の姿。 同乗者は居ない。 腰まで伸びたロングストレートの栗色の髪、同じ栗色の長い睫毛に透き通る様な赤の瞳。 どこかあどけなさを残した容姿だが、十分に綺麗と言える顔立ちをしている。 身長は高くもなければ低くもない、太っているわけでも痩せすぎている訳でもない。 一言に言えば、中肉中背の綺麗な女性である。 着ているのは薄いシャツ一枚にホットパンツだけ、と随分スポーティな格好だ。 彼女の乗っているこのトラックには、側面に大きな文字が書きなぐってあり、そこには『ヴィク商店』と綴られている。 ヴィクとは彼女の名前で、商店はそのままの意味だ。 ヴィクは様々な国を旅し、そこで手に入れた物を他国で売る事により商売をしているのである。 「ふーんふーん……つぎのおくにーはどこですかぁー、っと」 透き通る様なキレイな声で、変な歌を口ずさみながら、何の障害もない荒野を猛スピードで突っ切っていく。 何かに衝突すれば大惨事を免れないスピードだが、見通しは極めていいのでその心配はないだろう。 ヴィクがここまで速度を上げているのには理由がある。 前に訪れた国を出てから今日で二週間ほど経つのだが、一向に次の国が見つからないのだ。 トラックにはたくさんの商品が積んであるが、売る相手が居なければ商売は成立しない。 前に居た国で情報を集めておけばよかったものの、面倒くさいからと後回しにした結果、忘れてしまったのはヴィクであるため、完全に自業自得なのだが。 「ふーんふー……ん?」 そんな中、ヴィクの視界の端にほんの一瞬何かが映った。 ノリノリで口ずさんでいた変な歌と、猛スピードで走っていた車を止め、視界に何かが映った方向に目を凝らす。 視界の先にあったのは、遠くて見辛かったが建物のようだ。 こんな荒野にぽつんと一件だけ、なんとも目立つ。 「……なんだろあれ?」 それを認識した瞬間、ヴィクの目がキラキラと輝いた。 好奇心旺盛な彼女は、こういうものを見つけたら放ってはおかない。 アクセルを踏むと迷わずその建物の方にハンドルを切り、猛スピードでそちらへ向かうのだった。
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