1章

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初めて会ったのは バスの中だった。 大雨の中、一人の男性が そのどしゃ降りを払いながら駆け込んできた。 髪には雨が滴っていた。 服も身体も、斜めがけしているギターのバッグもびしょびしょに濡れている。 私はつい、その男性を観察してしまった。 長身で、遠くから見ただけでもわかるくらい痩せている。 ちゃんと食べてるのかなぁ、なんて他人の私が心配してしまうくらいだ。 さっきから、もぞもぞとポケットをあさっている。 ハンカチか何かを探しているのかなぁ……。 そう思うと、バッグの中にあるハンカチを手渡したくなった。 あんなに濡れて…しかもガリガリなんて、風邪引いて死んじゃいそう……。 なんだか、あの男性がとても可哀想になってきた。 『フランダースの犬』を見たときの感情が溢れてくる。 …とても失礼だけど。
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